こんにちはtknriiiiです。
 2011年現在では相手が限定やキャリア限定で通話料が定額や無料となるサービスが存在しています。
 しかし、数年前までは通話料は各キャリアのドル箱となっており、通話料の定額や無料など考えられないものでした。
 通話料収入が減少し、データ通信…つまりパケット通信料を定額とすることでARPUを上げ、通話料は収入のメインから少しずつ外れていく様になり、通信が各社の主な収入源となって行った。
 auはスマートフォンにSkypeを搭載してIP電話として利用できるようにしてしまうなど、電話としての収入を半ば諦めている感もある。
 しかし、今から数年前、2002年頃はまだまだこういったサービスはなく、通話料は高止まりしていました。
 そんな時代に起こった一つの事件、今日は歴史に埋もれた詐欺事件JM-NET事件を追いかけてみたい。
コロンブスの卵的発想
JM-NETは休眠会社から復活し、通信業者として業務を開始した。
 「モブデム」というアダプターを付けることで、通話料が定額になるという。
 この明らかにセンスのない名称、アダプター一つで通話料が定額になるという怪しい話、最初からうさんくさい雰囲気が満載であった。
 この「モブデム」はアダプターとして付けることで、通話の信号を「タグ」に変換し、通信事業者の基地局をパケット通信として通過して相手側に届く。
 相手のケータイ端末で届いたパケットを通話信号に戻して通話が可能になる。いわば「コロンブスの卵的発想」であるとして、TVニュースになったこともあった。
 実現するのであれば、本当にコロンブスの卵で、夢のような話であった。
 もちろんこれは夢のまま終わるのだが…。
ちょっと技術をわかっていれば…
日本の携帯電話のシステムを少しでも、それこそネットに出ているニュース記事を把握できる程度の知識であっても、これは「ありえない」とすぐにわかるような内容だ。
 まず、「タグ」ってなに(笑)htmlでも書くのか?(笑)
 アダプターは充電などに使われる端子に付ける?そんなところにパケットを流す回路はついていませんけど。
 そもそも、通信業者の基地局を経由してどうやって無料にするの?パケット通信だって無料じゃないんだよ?
 (この事件の最中にauがパケット定額サービスEZフラットを開始する)
 もう、突っ込みどころが満載な物であった。
 そもそも回路上タグ?にできない。
 受け取り側のケータイ端末だってそれを復元する事ができない。
 何をどうやったらこんな事が可能なのか、いや単に不可能なことをそれらしく話しているに過ぎない物なのではないか。
 タグが新しい通信プロトコルならば、それをどういう制御を行ない、基地局を通してどうやって通話信号に復元するのか、全く説明もないまま話は進んでいったのだった。
 そう、逆転の発想コロンブスの卵はすでに中身が腐っていたのだ。
TV報道で注目が集まる。
この一件に関しては、ケータイ各社は全否定しあり得ないことだとすぐに話をしていた。
 しかし、通話単価が高いことを気にしているユーザーや代理店などはこの話に乗る者もおり、静かに話が進んでいった。
 TBSの「NEWS23」では、この件を取り上げ否定的な報道を行なっていた。
 否定的と言うよりも実現性に疑問を持つような感じだった。
 しかし、実現すれば他社より優位に立てると思っている代理店は予約金を入れたり、代理店契約を行なったりと先行投資をしてしまう。
 そういう話を聞いていて、私は思ったのが「自分たちが販売している製品を何故よく調べないのか」という至極普通の思いだった。
 技術的な細かいことまで調べなくてもあり得ないとわかるようなシステムだ。
 何故そこすら調べないでおかしな投資話に耳を傾けるのか。
 本当に不思議に思う。
 また、代理店には全く畑違いの業者もいた。のりで有名なナガイの子会社、東京ナガイがその中にはいた。
 全く畑違いの事に手を出すのは良いが、少しは調べろ。と言いたくなる。
 しかしこの手の報道は善し悪しだと思っている。疑問を投げかける反面こういうものがあるという宣伝にも使われてしまうことになるのだから。
そして、裏で動き財をなす者が居る
そもそも技術的に不可能なモブデム、何故いきなりこのような事を始めたのか。
 そこには一つの動きがあった。
 JM-NETの親会社として、これまた全く畑違いの大盛工業という土木建築会社があった。
 不況にあえぎ売り上げも低迷しているこの大盛工業、親会社であるとなったとたんに株価は大暴騰。
 あっという間に数倍の値段にまで上がっていった。
 と、ここまで話せばわかってもらえるかもしれない。
 今回の事件、その大本はこの株価の暴騰にあった。つまりあり得ないような事であっても風説の流布によって財を得られればそれで良い。
 そういう人間が居たと言うことになる。
 通常、こういう詐欺事件は予約金や代理店契約の金をかすめ取って、トンズラするのが多いのだが、今回は株の売り抜けが目的なのだ。
 単にITを絡めただけのつまらない事件であった。
 そう、目的は風説の流布による株価操作に過ぎなかったのだ。
腐った卵をつかまされたもの達
2003年8月、誕生したモブデムは定額通話ができるようなものではなかった。
 格安の国際通話を利用したコールバックアダプター、つまり国内の携帯電話同士の通話よりも安く設定されている国際電話回線を利用することで通話料を安くすると言うだけのものだった。
 どうあがいても定額通話はできない、そもそもIP電話や「タグ」はどこへ行ったのだ。
 すべては机上に書いた空論なのであった。
 予約金を入れていた代理店はこの「モブデム」を渡されるが、初期のモブデムはすぐに通話不可能となる。
 このコールバックアダプターさえも自社開発品ではなく、他社の製品のシールを貼替えただけというお粗末なものであった。
 そして、発売元のアペルロムという会社から、該当のアダプターからの発信を止められてしまい何もできなくなってしまった。
|  アペルロム、充電端子に刺すコールバックアダプター | 
急遽別の会社から同様のものを調達したが、結果は同じ。定額とすることは絶対にできないものである。
 結局夢は夢のままで終わったのだ。
 この事件で、予約金や代理店契約をした所は定額が嘘であることから違約金や購入者への対応に追われ、廃業するものやそもそも端末が来なかったユーザーもいたのだった。
 大きな被害を出したJM-NET事件、その首謀者は逮捕され罰金などで15億円(稼いだ金のほぼすべて)を没収され、JM-NETは夜逃げ同然に事業を廃止した。
まだ携帯電話やネットというものがブラックボックスの様に見えていた時代の悲しい事件、しかし、今後もこういった事件が出てくる可能性がある。
 うまい話には裏がある、裏を知るためには自分で知識を身につける必要がある。
 そこを忘れないようにしてほしい。

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