前回、料金に関する事を書きましたが、そこで触れたADSLと共に来た大幅な利用料金の下落。これによってダイヤルアップ時代になりたっていた二次プロバイダは存続の危機に見まわれます。細々と、小さい規模で営業を続けていた各社は、バックボーンの増強と料金体系の変更に追われていきます。
その結果、体力のない弱小ISPは廃業や撤退を余儀なくされました。
日本ではインターネット黎明期に個人からのしあがったISPもありました。その代表例と言われているのがベッコアメ・インターネットです。東芝にいた一個人がインターネットプロバイダに目をつけ、サラ金から資金を貸り六畳の部屋にモデムを積み上げて起業したと言われています。
このような成功事例もあり、多くのシステムベンダーも負けじと事業を展開していきました。まさに「雨後のたけのこ」の様な時代です。しかし、こうしたインターネットバブルは常時接続とブロードバンド化の波によって破綻していきます。米国でもドットコムバブルと言われる物がありましたが、同じように日本でも第二のバブル期があったのでした。
二次ISPは自らExchangeに接続していないISPの事で、主にOCN(NTT系)やKDDIの下にぶらさがっているISPの事で大手ISPでは補完できない地方や、人口比率のわりに回線が細い地域のアクセスの分散という意味もあった。ただ、上位には通信キャリアがいるので、インターネットバブルとはいえど経営は楽な物ではなかった事でしょう。
地域密着型と言えば印象は良く思えるが、早い話小規模ISPなので経営基盤の脆い所がほとんど。統廃合、単に廃業や倒産も多々見られました。準大手とも言える、ソフトメーカー主導のISPでさえ消えるところが少なくない状況でさらに小規模のISPでは経営に行き詰まるのも時間の問題でした。
私もあまり大手のISPは利用せずに、小さなISPを渡り歩いて来ました。例えば富士ソフトABC(現・富士ソフト)が運営していたFSIネットや中規模なJust net(現在はSo-netに売却されたジャストシステムのISP)、DTIはネットゲームで遅延が少ないと聞いて入会したりもしました。
その中でもう一社、ブレーメンネットと言う神奈川を中心とした中小ISPを利用していました。ここは同じ運営会社でエンジェルネット、カナルネット、ブレーメンネットの3つのブランドを使用し、川崎では町内会のWebサイトを構築、運営している所もありました。正しい地域密着型ISPの姿だったのかもしれません。
2006年、突如としてこのISPに繋がらなくなってしまいました。経営に破綻し電気通信事業者としては違法にあたる『夜逃げ』をしてしまうのです。この事態にユーザーは戸惑い、なにが起きたのか事態を把握する事ができませんでした。これも当たり前の事で、ユーザーは情報ツールとしてのインターネットをいきなり失ったのですから。調べるにもネットに繋がらない。もちろんISPは逃げているのですからサポートの電話も繋がらない。まさに二進も三進もいかない状況になってしまったのです。それも自身の問題ではなく、ISPの都合によるものなのです。まず怒りよりもメールをどうするか、新しくISPの契約をするにしても、オンラインサインアップもできない。失ったインターネットへの接続手段を復活させなくてはなりません。
やがて落ち着くと年間一活払いにいた料金はどうなるのか、サービス停止までの補償はどうなるのか。色々と考えてみるのだが、すべては後の祭り。業者が逃げてしまっている以上どうにもすることはできない。悲しい現実だけが残ってしまいます。そして、この事件はもうひとつ大きな問題を残していました。
電気通信事業法では、事業の廃止について事前に何らかの方法で利用者に伝達することが明記されている。これに違反すると200万円以下の罰金刑に処せられる。まず第一にこの法律違反が挙げられる。もう一つの大きな問題とは、夜逃げ騒ぎの後に事務所を捜索したところ、契約者の個人情報が入ったサーバーが無くなっているのが確認されました。これは2005年に施行されたばかりの個人情報保護法にも抵触する問題です。この消えたサーバーには契約者の口座やクレジットカード番号も入っていたと言われています。つまり、場合によっては大きな詐欺事件に利用される恐れがありました。幸いなことにとりあえず今までに犯罪に利用されたとは聞いていません。
私は当時OCNとADSLを利用しており、単に解約し忘れていたダイヤルアップ接続用に加入したままになっていました。なので、実害はほとんどなくメールアドレスが利用不可になった事くらいでした。とはいえ、すでにメインはOCNだったのでそれもあまり被害と言えませんし、支払いも月払いのため過払いもありませんでした。しかし、置いといたWebデータはすべてなくなり、バックアップもなく喪失したデータがあったくらいです。
今思えば私が利用していたISPで今でも残っているのはOCNとDTIくらいで、FSIも売却されて今はPCデポ小会社が運営する小さなISPの一つとなり、ジャストネットもSo-netに売却されてドメインも消滅。ADSL事業者として利用していたアッカネットワークスはイーアクセスに吸収されて消えました。今はj:comで何となく納得して利用していますが、あの頃のさまざまな思い出が甦ります。夜逃げした業者と言うのは今のところここ以外には無いものの、被害金額の小さな事もあり、巨額詐欺事件へと発展した平成電々や未公開株で事件となったMTCIのように大きく取りあげられる事はありませんでした。
既に一通りの淘汰が終わり、今後このような事件は起こらないかもくれません。いや、起こらない方が良いのです。7年前よりも更にインターネットは身近になり、生活必需品へと変わりつつあります。今、同じ事が起これば……同じ事が起きてもスマホ等があるのであの頃よりは困る事は無いかもしれません。そう考えるとレアな事件だったんだなと今は思える様になりました。
今回は少し個人的な話になりましたがインターネットがブロードバンド化し始めてから既に15年近く、こんな事もあったんだなあと思ってもらえれば幸いです。