いま、スマートフォンが主流となり、かつてのガラケーは過去の物となってしまいました。しかし、日本のガラケーは独自の進化をしたことによってスマートフォンから出戻りをする人が居るくらい洗練された製品となっています。
特に感じるのはケータイ専用サイトといった物で、これらはiモードやEZweb、J-SKYなど様々な名前で提供されていました。そして今、スマートフォンが主流となったことでこれらが不要となり、パソコンと同じようにWebを閲覧できるようになりました。しかし、それとてガラケーで出来ていたことです。
今回はこれら専用サイトの事についてお話したいと思います。
かつて、携帯電話は電話機であり、ショートメッセージサービスが利用できる程度の物でしかありませんでした。しかも、そのショートメッセージもキャリアごとの依存などがあり、使い勝手がいいわけでもなくかつてのポケットベルの代わりになるようなサービスでもありません。
そこで、docomoはどうせなら携帯電話でインターネットにつながるようにすればいいじゃないか、と言うことでiモードを発表。そして、同時に今でも続くメールサービス。通称キャリアメールを利用できるようにしました。ちなみに、携帯電話機からインターネット接続が可能になったのはこれが世界初の事で、これがそれまでもシェアが高かったdocomoへ流れる決定打ともなっていました。
iモードは、一般的に使われているhtml(いわゆるホームページに使われる言語)のサブセット(機能簡略版と思ってください)を利用することで、一般的なhtmlの知識があればサイトの構築が容易になる手法を使い、携帯電話の網からしかつながらない独自のコンテンツを作り上げていきました。これは、網や端末などの情報を元にしており、パソコンから接続しようとしても接続できないものとなっていました。これは、いわばなんちゃって閉域網に近い仕組みとなります。
そして、その中にデコメールや着メロ、ショートムービーなどの多くのコンテンツを公開し、各企業が比較的安全で確実な利益を得られる仕組みを作ることに成功しました。もちろん、それ以外にも「勝手サイト」と言われている個人が自由に作成したサイトにも接続することは可能です。そこでは一時期無法地帯となっており、有料コンテンツを不正に無料配布したり、再販をしたり。また、自作の着メロとして音楽の一部を切り出して利用するなど、著作権上色々と問題のある事もありました。
しかし、それらを含めて携帯電話はケータイへ、情報端末へと進化していったわけです。同時に古い端末でも見られるようにするために画面の解像度が上がったとしても表示される情報量(ようは1ページあたりの文字数など)が変わらなかったり、逆に互換性の問題で古い端末では見られないサイトなどが出てくることもありました。当然これらは時代の流れによって出てくる仕方の無いことでもあります。
そして時代は流れて2003年、PHSを展開するDDIポケット(現ウィルコム)がパケット定額制を開始しました。これによって、「パケ死」と言われたパケット代にビビりながらの通信から開放されることになります。同年ケータイでもパケット定額制が開始され、auがまず先陣を切りました。EZフラットという名称で始めたパケット定額、翌年にはdocomoがパケ・ホーダイを秋にはVodafone(現SoftBank)がパケットフリーを開始します。
となると、ユーザーはパケット代を気にせずに利用できますから、今まで以上にコンテンツのダウンロードをすることになっていきます。特に顕著に出たのが「着メロ」から「着うた」、そして1曲まるまるの「着うたフル」など、個性を出すために音楽のダウンロードサービスなどが行われていきました。これらはパケット定額制になったからこそ成功した、そしてケータイ端末に独自にダウンロードさせるサービス、つまり専用サイトだったからこそ流行ったサービスとも言えます。
それら配信サイトは公式サイトのみならず、レコードレーベルなどからも展開されて行き、新しい業態として発展していきました。また、デコメも様々な物が現れていき、専用の検索サイトや乗り換え案内など、出先でケータイ端末を利用するのに便利なサービスが数々現れていきました。これらサービスの影響で、一部ユーザーではインターネット=iモードといった利用方法しか知らない事もありました。
これら独自の進化を遂げていったケータイ専用サイトは後に登場するフルブラウザ(ケータイでPC向けサイトが見られるサービス)が現れてからも衰えることが無く、むしろPCのサイトをケータイ向けに変換するサービスなどがありました。
時代はさらに過ぎ、iPhoneが出てきました。日本では3GがSoftBankから発売されると、日本でも一部のユーザーが購入し始めました。2009年にはdocomoからAndroid1.5が搭載されたHT-03Aがリリース。2010年にはソニーエリクソンが最初のXperiaをリリースしたり、2011年にはかつてのガラケー全盛期並みのスマートフォンが登場し、その中の多くは売れずに消えていきました。ガラケーそのものが減っていくことで、専用サイトを設けていた業者も収益の問題から徐々に撤退していったり、すでに着うたなどで儲ける時代では無く、自分で買った音楽を自由に着信音に設定できるスマートフォンで商売することが難しくなっていきます。
ユーザーが減ってしまえば業者が離れるのも当然のことで、徐々衰退していく事となります。そして同時に、スマートフォンの解像度とサイズではPC向けサイトのすべてを見ることが難しく、拡大縮小を繰り返し画面のスクロールをしてサイトを見ることも少なくありませんでした。正直この頃は日本で言うフルブラウザのサービスと大差が無いように思えます。単にインターフェイスがタッチパネルになった事で操作しやすくなった、というレベルの物だったと感じます。
PC向けサイトが見づらいならば、レイアウトを変更してスマホでも見やすくすればいいじゃないか。それがスマホ向けサイトの発端でしょう。確かにそれは今までのiモード、ケータイ専用サイトとは異なり情報量も多く、様々なサイトを不自由少なく見ることが出来るようになっています。しかし、元々ケータイ専用サイトがあったが、それを駆逐してスマホ向けサイトを作るのでは本末転倒では無いでしょうか。もちろん、日本国外ではiモードのようなサービスが流行らなかったこともあり、世界で共通のプラットホームとしてスマホ用サイトを作るのはわかります。
日本では独自に進化したサービスとハードウェア、ソフトウェアがありましたが、それを捨ててまで移行する価値はあったのでしょうか。逆にタブレット端末はパソコンからのスケールダウンをうまくしており、専用サイトなど不要でPCに取って代わる勢いを持っています。これも考えようによってはかつてiモードがパソコン以上にインターネット端末として普及してきたのと似たような物では無いでしょうか。本当にスマートフォンが普及して便利に、そして進化したのでしょうか。個人的には「あまり変わらないのでは」と感じています。
専用のアプリケーションなどを使い、新たなコミュニティーやサービスが産まれたことは確かです。それらはスマートフォンだから産まれた物なのでしょうか。新たなサービスが産まれ、最初にPCで増えていきそれがたまたまスマートフォンの普及期と重なったことでスケールダウンして提供されていった。サービスの産まれた時期がもう少し早ければ、その提供先はケータイ用アプリとしてだったかもしれません。現にTwitterのアプリはケータイ向けにも数多くリリースされています。また、docomoはTwitterと共同開発してクライアントアプリも提供しています。
これらは日本という特別な環境にいたから感じる事なのでしょうか。単にそれまでの日本が進みすぎていて、やっと世間が追いついたけれど先に進んだように見せるための錯覚なのでしょうか。そんなことを考えながら今回は終わりにしたいと思います。
あ、スマホを全否定するつもりはさらさらありませんよ。ただ、単純なブラウズという点については…という意味です。